【EVは普及しない?】間違いだらけのEV懐疑論

記事作成:2021/1/13 最終更新:2021/10/8

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皆さんおはようございます、環境系vTuberの八重さくらです!
今回は最近増えてきた「EV懐疑論」のよくある間違いについて、徹底解説します!

2020年に政府がカーボン・ニュートラルの方針を明確に示して世界のEV化に歩調を合わせるなか、これに逆らい日本の自動車産業を潰そうとするかの如く「間違いだらけのEV懐疑論」を展開するメディアが後を絶たない。

当ブログでは従来からそのような「間違いだらけのEV懐疑論」に対して「ファクトチェック記事」を執筆してきたが、似たような間違いが繰り返し散見されることから、誰でもかんたんにファクトチェックができるよう「よくある間違い」をまとめた記事を公開することとした。

1. 技術・コスト

1-1. EVはガソリン車より高い?

バッテリーのコストを引き合いに出して「EVはガソリン車より価格が高い」「低価格な軽自動車が中心の国内市場では売れない」などとする主張があるが、この主張は2つの重要な事実を無視している。

①ガソリン車とのコスト構造の違い

ガソリン車は初期費用を抑えてメンテナンスで儲けるというビジネスモデルに対して、EVは初期費用が高くメンテナンスが楽という違いがある。例えば500万円のEVは300万円のガソリン車を購入して10年間・10万km乗った場合のコストはほぼ同じか、地域によってはEVの方が安くなる。

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東京都でEVとガソリン車を購入した場合(詳細条件や計算式はこちら

普及に伴って補助金や税金などのインセンティブは徐々に少なくなると予想されるが、後述の通りこれに合わせてEVの価格も下がるため、長期の保有コストへの影響は限定的だ。

この傾向は初期費用が下がってきた最新の車種では特に顕著で、実際にVWがアメリカで発売した最新のEVであるID.4は同等のガソリン車と比べて大幅に割安なコストで保有できると試算されている。

※参考:Volkswagen ID.4 vs. Volkswagen Tiguan — 5 Year Cost of Ownership

②バッテリーのコスト低減

EVの価格は既に長期の保有コストではガソリン車と変わらない程度に下がっているが、2~3年以内に初期費用でもガソリン車より安くなると予想されている。初期費用がガソリン車並になるにはEVの部品で最も高いバッテリーの価格を1万円/kWh程度まで下げる必要があると言われているが、実はこの価格はもう目前まで迫っている

2022年に100ドル/kWhを切ると予想されるバッテリー価格
2022年に100ドル/kWhを切ると予想されるバッテリー価格(日経XTECHより引用)

ただし、ここで重要なのはバッテリー自体のコスト(製造価格)ではなく、調達コストである。例えば日産やテスラなどEVに本気で取り組む企業は、低価格で安定してバッテリーを調達するために内製化したりバッテリーメーカーのとの強力なパートナーシップを組んでいる。逆に言えばそれらの行動をしていないメーカーは低価格で安定してバッテリーを調達することが困難となり、魅力的なEVは販売できない

※強力なパートナーシップ:合弁会社の設立、工場の共同運営など


上記の2点を考慮して、軽自動車の価格を試算してみよう。軽自動車なら35kWh程度のバッテリーがあれば、余裕を持って200km程度走行できる。バッテリーのコストは35万円程度だ。

ただし後述の通りバッテリー(セル)はそのまま搭載するわけではなく、モジュールやパックを作り車体に固定するためもう少しコストはかかる。多少の余裕をみて仮に初期費用が50万円程度増えたとしても、維持費で相殺できる範囲だろう。買い物や通勤など、使い方によってはさらにバッテリーを減らして初期費用を下げることも可能だ。

1-2. バッテリーは原材料が高く、コストは下がらない?

バッテリーのコスト構造を引き合いに出して「バッテリーはコストに占める原材料の割合が高くコストは下がらい」とする主張があるが、前述の通り数年以内に大幅なコスト削減なしでもガソリン車と同等の初期費用になると見られている。

①コストを削減する方法

同等になるだけでは優位性は限られるが、これに加えEVならではのコスト削減方法として、テスラが2020年の「バッテリーデー」という投資家向けのイベントにて新たなバッテリー技術を発表。

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航続距離+54%、コスト-56%、投資効果+69%を達成する新バッテリー技術

※参考:【速報】 テスラ「バッテリー・デー」のポイントを解説

このイベントではバッテリーセルの設計や製造方法だけでなく「車両への搭載方法の見直し」というEVならではの方法により、航続距離を約1.5倍に増やしつつコストを現在の半分以下まで下げる方法が発表された。

ちなみにこの発表内容は絵に描いた餅ではなく、既に試験的な製造ラインにて製造・改良を進めている段階で、数カ月間に渡り試作車両に搭載した走行試験も行われている。順調に進めば2021年には少量の生産を開始し、2022年以降に量産化を進め、25,000ドルの新型車を発売するスケジュールとなっている。

※参考:Tesla’s new 4680 battery cells have been deployed in working vehicles for months
※参考:Tesla's Potential $25,000 Car Could Come Out Of China By 2022

②今後のコスト削減の予想

多くの投資機関がEVのコストや普及率の予想を発表しているが、最も注目すべきはARK INVESTの予想である。多くの組織がこれまで幾度となく上方修正を繰り返す中、ARK INVESTは数年前から正確な予想を行っており、現在のEV普及率と合致している。

※参考:The Future of Autos and Trucks is Electric(2017, ARK INVEST)

ARK INVESTが正確に予想できている最大の理由はズバリ「ライトの法則」であり、ARK INVESTでは「累積生産量が倍増するたびにコストが15%低下する」と指摘している。これは世界で初めてガソリン車を大ヒットさせたフォードが産み出したT型フォードに始まり、最新のEVであるテスラモデル3にも当てはまるという。

ライトの法則
モデル3とフォードのコスト比較(ARK INVESTより引用)

このように、EVのコストを予想するにはバッテリー単体だけでなく、EVをこれまでの自動車とは全く異なる新しい製品として捉える必要がある。

※参考:ライトの法則が予測した109年間の自動車生産コスト推移、そして現代のテスラのケース

1-3. HVの技術がEVに活かせる?

EVとHVの技術について「違いはエンジンの有無のみであり、HVの技術があればEVも作れる」と認識している人が多いが、これは大きな間違いである。確かにモーターやインバーター、バッテリーなど共通している部品もあるが、例えば以下のようにエンジンの有無によって大きく変わる部分も多い。

①急速充電速度

HVは(プラグイン車でも遠出する場合は)ガソリンを補給して走るのが基本だが、EVで遠出する場合は急速充電を繰り返すため、急速充電の速度が重要となる。急速充電の速度が一定以上であれば休憩時間だけで充電が完了するが、充電が遅い場合は休憩の頻度を増やしたり休憩時間を伸ばす必要があるためだ。

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充電速度の比較(INSIDE EVs/FASTNEDより)

上記の例では車種によって最大60kW~150kW程度の出力を許容できているが、2019年に発売されたレクサスUX-300eは最大50kWまでと、150kW(※)を許容できるAudi e-tronと比べて実用性が大きく劣っている。HVの小さなバッテリーとEVの大きなバッテリーでは、求められる性能や管理方法(BMS)のレベルが大きく異る

:Audi e-tronは海外では150kWだが、CHAdeMOに対応した国内向けは50kWに制限される。

②レイアウト設計の自由度

エンジンを搭載するHVの場合、室内レイアウトは従来のガソリン車と同等の制約を受ける。しかしEVはエンジンが不要となり、より室内空間などのレイアウトを自由に設計でき、小さな車体で大きな室内空間を確保したり、荷物スペースを確保することが可能となる。

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REEプラットフォーム(REEオートモーティブ公式より)

上記はイスラエルのEVプラットフォームを専門とするスタートアップ「REEオートモーティブ」が設計したREEプラットフォームで、必要な全ての機器が床下に配置されている。エンジン車から受け継いだ従来のプラットフォームとは作りが大きく異なり、独自のノウハウが必要となる。

③バッテリーのサイズ・搭載方法

バッテリーサイズが小さいHVは前席の下部など車内に搭載しているが、サイズが大きいEVは床下に敷き詰めて搭載する方法が主流となる。通常は[セル] → [複数のセルで構成したモジュール] → [複数のモジュールで構成したパック]の構造を持ち、最終的には1つのバッテリーパックを車体(シャーシ)に固定する。

バッテリーのセル・モジュール・パック
バッテリーのセル・モジュール・パック(30 Years of Lithium-Ion Batteries.より引用)

これを更に進化させた構造としてセルtoパック(セルから直接パックを構成)やセルtoシャーシ(セルを直接車体に固定)などの新技術があり、例えばテスラがバッテリーデーで発表した「Structural Batteries」が後者のセルtoシャーシにあたる。

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テスラが発表した「Structural Batteries」(IR資料より)

これらの大量のバッテリーを効率よく搭載する技術はHVには存在せず、EVならではの技術である。

1-4. 海外はEVを売り、国内にはHVを売る?

自動車産業はグローバル産業であり、今後HVを含むガソリン車が禁止される海外でも売れる車を作り続ける必要があるが、国内の自動車メーカーに対して「急速にEVが拡大する欧米中などの海外ではEVを販売し、国内ではHVを販売する」という意見がある。これは「火力発電が多い」「EVの急速充電インフラが貧弱」という国内の状況を鑑みたもので一見理にかなっているとも見えるが、ここに大きな落とし穴がある。

①開発費用と車種

前述の通りHVとEVではプラットフォームの設計レベルから大きく異なるため、HVとEVは別々の車種として開発する必要がある。仮に同じモデル数を維持する場合、(一部は共通化できるにしても)単純計算で2倍近くの開発費が必要となり、同じ開発費をかけた場合は車種が半分に減ることを意味する。

体力があれば「全方位戦略」として両方に対応することも可能かもしれないが、EVのみに注力するメーカーと比べると相対的に不利になってしまう。

②国内の状況は変わる

「火力発電が多い」という現状については後述の通り、再エネの導入により電力のカーボン・ニュートラルとなる計画である。当然ながら、電力がクリーンになればHVよりEVの優位性が高まる

「EVの急速充電インフラが脆弱」という現状についても2020年12月25日に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にて拡大が決定しており、2021年より着手される。

充電インフラの拡大
グリーン成長戦略(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略より)

この他、これまで国内のほとんどの急速充電器を管理していた自動車メーカー中心のNCSが解体され、電力会社が中心となるe-Mobility Powerへの移管を進めている。代表である東京電力の姉川氏は急速充電規格「CHAdeMO」のキーマンであったが、東日本大震災の復興のために充電インフラから離れていた。姉川氏の復職により、さらなる充電インフラの普及が予想されている。

※参考:EVキーマンに聞く/CHAdeMO協議会 姉川尚史会長 ③「取り急ぎ、高速道路SA・PAの充電渋滞の解消に向けて頑張っています」

1-5. ガラケーからスマホへの移行とは違う?

ガラケーが壊滅してスマホに移行した歴史に酷似しているという指摘に対して「ガラケーとの違いは、ガラケーの技術をいくら磨いてもスマホは作れない」「HVの場合はEVにも技術の転用が可能」とする主張がある。

HVの技術を転用するだけでは魅力的なEVは作れない理由は前述の通りだが、改めてガラケーとスマホの違いを整理してみよう。ガラケーとスマホには技術的な違いはなく、機能的にも「通話」「メール」「カメラ」「ネット」「アプリの追加」など、スマホの全ての機能がガラケーにも付いていた。それだけではなく、さらにガラケーであれば「お財布ケータイ」「ワンセグ」といった国内で重視されていた機能も付いていた。

しかしそれでも、消費者はデザインや操作性などの「UX(ユーザ体験)」が優れたiPhoneを選んだ。

それではHVとEVにおけるUXの違いは何か。運転が好きな人はアクセル操作に瞬時に応答するダイレクトな走りに虜になるが、一般消費者にとってはそれよりもスマート性、スマホならぬスマートカーであることが重要だ。EV・スマートカーになると、例えば以下のようなことが可能となる。

  • 自由なレイアウト設計による広大な室内空間、荷室
  • オイルやブレーキの交換が不要で維持費が安くメンテナンスが楽
  • 給油不要、コンセントに繋げるだけで翌朝には満タン
  • 振動や騒音が少なく長距離の移動でも疲れにくい
  • 深夜・早朝の住宅街でも近所迷惑にならない
  • 乗る前にスマホから冷暖房の操作(コネクテッド機能)
  • ブレーキを踏んで電源ON、降りれば電源OFF
  • ソフトウェアアップデートによる進化
    • Youtube、Netflix、Spotify、ゲームなどのエンタメ
    • セントリーモードなどのセキュリティ
    • UI、音声コマンド、操作性の向上
    • 運転支援、緊急回避支援などの安全性向上
    • 将来的には完全自動運転に対応
  • 駐車場に停めた車をスマホで呼び出す(今は私有地のみ)

※参考:テスラのある生活スタイル

これらのスマートなUXの多くはガソリン車やHVでは実現が難しく、実現にはEV化が必須であることがわかる。確かにガラケーの技術を磨いてもスマホは作れないが、それと同じようにHVの技術を磨いても魅力的なEV・スマートカーは作れないのである。

1-6. 今はHVに注力し、EVの性能が上がってから対応する?

バッテリー技術が未熟であることを理由に「今はHVに注力し、技術が熟してからEVを作れば良い」という主張があるが、これにも大きな落とし穴が存在する。

前述の通りEV特有の技術が育たないことも問題の1つだが、最大の問題はバッテリーの確保である。トヨタがRAV4 PHVのバッテリーを確保できずに受注を停止したことは記憶に新しいが、EVになればPHVの数倍のバッテリーを確保する必要があり、世界中の自動車メーカーとの勝負となる。

※参考:「現実解」のPHVに電池の壁、トヨタRAV4年内打ち止め

確保の問題だけではない。EVの性能を左右するバッテリーはガソリン車のエンジンと同じくらい重要な部品であり、バッテリーを外部メーカーに依存することはエンジンを外部メーカーに依存することと同義だ。実際に日産やテスラは早期から自社生産や協力なパートナーを組み、自社向けの専用工場を建設している。強力なEV転換を進めるVWやGMも同じ方法をとっている。

※参考:フォルクスワーゲンが電気自動車用バッテリー工場にさらなる投資〜『MEB』も着々と進展
※参考:GMとLG化学が世界最大級のEV用電池工場建設計画を発表

1-7. EVはバッテリーが劣化して交換が高価?

初期に販売されたEVにおいてバッテリーがすぐに劣化して航続距離が減ることを引き合いに「EVはバッテリー交換が必要で高価である」とする主張があるが、これは過去の話である。近年ではバッテリー自体や温度管理機能が大幅に向上し、例えばテスラ車両の平均的な走行可能距離の減少を見ると、20万マイル(約32万km)走行したあとでも約90%を維持している。

テスラのバッテリー劣化
テスラのバッテリー劣化(Dutch-Belgium Tesla Forum集計データより引用)

国内の平均的車両が廃車するまでの走行距離は10万km~15万km程度とされており、極端に長距離を走る使い方でなければ購入後のバッテリーの交換は不要である。ただし急速充電を繰り返すことでバッテリー性能が劣化して充電速度が落ちる場合があるため、後述の通り自宅での基礎充電を中心とすることを推奨する。

2.使い勝手

2-1. 寒冷地では航続距離が落ちる?

真冬の寒冷地などで「寒くなるとバッテリーの性能低下により航続距離が短くなる」という主張がある。これは暖房の問題(エンジンの排熱が無いため、その分バッテリーを消費)や、バッテリーの化学的な問題(温度が下がるとバッテリーの内部抵抗値が上がり、取り出せる電力量が減る)があるため、一見すると真っ当な主張である。しかし、これを理由に「EVは寒冷地に向いていない」と結論づけるのは早計だ。

寒冷地で燃費/電費が悪くなる現象はガソリン車やHVでも見られるが、EVではどの程度変わるのだろうか。例えば米国エネルギー省によると、ガソリン車は-15%、HVは-30%~-34%、EVは-39%変わるというデータがある。

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寒冷地でのガソリン車、HV、EVの効率比較(米国エネルギー省より)

やはりEVはダメだと思われるかもしれないが、実はこれには対策方法が存在する。例えば日産リーフやテスラモデル3を始めとした最新のEVでは暖房にヒートポンプを使用しており、暖房効率が2倍~3倍程度向上している。また、バッテリーヒーターを搭載している車種では(コンセントにつないだ状態で)ドライブ前にバッテリーを温めておくことで、化学的な問題で航続距離が短くなることを回避できる。

※参考:Tesla Model Y Range: Battery Preconditioning Makes A Huge Difference

例えば上記の例ではヒートポンプエアコンとバッテリーヒーターが搭載されたテスラモデルYで事前にバッテリーを調整(プレコンディショニング)することで、-8℃の環境でも航続距離の低下を19%に抑えられることを表している。これはHVよりも優秀であり、ガソリン車とも大差ない結果である。(以下のグラフのモデルYのデータは米国エネルギー省とは測定条件が異なるため、あくまで参考程度に)

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寒冷地でのガソリン車、HV、EV、モデルY(参考値)の効率比較(当サイト作成)

寒冷地でも対策さえすれば使用可能であることは、実際に北欧でEVが売れていることからも証明されている。2020年12月のEVのシェアを見ると、補助金が手厚くEVの普及が進んでいるノルウェーで66.7%(PHVも入れると87.1%)、オランダでは69%(PHVも入れると72%)を達成している。

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ノルウェーのEVシェア(CleanTechnicaより引用)

※参考:Norway Hits Record 87% Plug-in EV Share & 66% Pure Electrics In December
※参考:72% Plugin Vehicle Market Share in the Netherlands!

2-2. 豪雪地帯で立ち往生したら助からない?

2020年の年末に日本海側を中心に大豪雪に襲われ、これを引き合いに「EVで大豪雪に見舞われ立ち往生したら凍死する」という趣旨の主張があるが、これも誤った主張である。

前述の通り近年のEVはヒートポンプによる効率的な暖房を装備しており、例えば以下の実験によるとモデル3で外気温3℃の環境において、暖房を21℃に設定すると1時間あたりの消費電力は735Wだった。モデル3のロングレンジであれば82kWhのバッテリーを搭載しており、50%の残量があれば55時間以上持つ計算になる。

※参考:A comparison of a Tesla Model 3 with a heat pump to one without shows impressive results

当然ながら温度が下がれば消費電力も増えるが、多くのEVの検証動画を公開している「Bjørn Nyland」氏によると、-5℃程度の場合の消費電力は1kW程度とされる。

※参考:How long can a Tesla keep you warm in winter?

これに加えて、非常時には暖房の設定温度を凍えない程度に下げることでさらに伸ばすことが可能で、さらに暖房の代わりにシートヒーターや電気毛布などを活用すれば数日以上凌ぐことも可能である。何よりも重要な点は、EVはエンジンがなく排ガスが出ないため一酸化炭素中毒による死に怯える必要がないこと。電気が無くなるまで命の心配をすることなく安心して寝られ、電気が無くなりそうなら避難することもできる。

※参考:わずか22分で命に危険も 雪の自動車内CO中毒死

2-3. 立ち往生した後の救援が大変?

EVはガソリン車のように燃料を携行缶で運べないことから「立ち往生して電欠した場合の救援が大変」という主張があるが、これも解決方法が存在する。

①街灯がある場所はコンセントを設置

街灯がある場所は既に電気が通っており比較的容易にコンセントを設置でき、バッテリー上がり時の救援はもちろん、そもそもバッテリー上がりを防止することも可能。

②急速充電器を搭載した救援車両の活用

コンセントがない場所でも移動式の急速充電器を搭載した救援車両で数分間充電することで、近隣の充電器までの走行が可能になる。例えば以下のような仕組みを応用し、30kW程度の中出力の充電器を複数搭載して長めのケーブルと組み合わせることで迅速な救援が可能となる。

※参考:EVの“電欠”をお助け、現場作業や災害時にも役立つ移動充電車
※参考:「自走できる」EV用急速充電器が日本に上陸。容量は初代リーフ2台分

2-4. 航続距離が短く充電に時間がかかり、使い勝手が悪い?

EVが登場した頃からの根強い主張として、「EVは航続距離が短く充電に時間がかかるため、使い勝手が悪い」というものがある。確かにガソリン車のように5分で燃料補給が完了しないことは事実なので一見すると真っ当な主張かのように見えるが、これも多くに人には当てはまらないものである。

①航続距離の現状

カタログでの電費や航続距離を表す基準は色々あるが、最も現実に近い(厳しい)米国「EPA」基準で見ると、2010年に発売された世界初の量産EVである日産リーフではわずか117kmだったものが、2019年に発売されたテスラモデルSでは647kmまで進化。ガソリン車と遜色ない航続距離を達成している。

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発売中のEVの航続距離ランキング(INSIDE EVsより引用)

また、2020年現在に米国で発売中のEVの航続距離は中央値で250マイル(約402km)を超えており、多くの人の1日の平均走行距離が数十km程度であることを考えれば十分だろう。

※参考:New US Electric Vehicles Now Have 250-Mile Median Driving Range

②基本は家での基礎充電

ガソリンスタンドでしか給油できないガソリン車とは異なり、EVは自宅での基礎充電が基本である。帰ったらコンセントにつなぐだけで、翌朝には満充電になっている。充電するには最低限200Vコンセントがあればよく、戸建てであれば数万円程度で付けられる。集合住宅の場合は国や地方自治体からの補助金を活用することになるが、例えば東京都であれば消費税程度の負担で付けられる。

③遠出するときは休憩中に

前述の通り航続距離が長い車種であれば満充電で400km~600km走行可能だが、遠出するときは1日でそれ以上走る場合もあるだろう。その場合は急速充電が必要になり、多くの車種では約30分で80%程度まで回復するが、充電が終わるまで30分間じっと待つ必要はなく、休憩中に充電することが一般的である。

もちろん全員がきっちり30分以上休憩するわけではないが、「300kmを超えるドライブでは過半数のドライバーが30分以上休憩する」というデータがある。加えて30分きっちり充電する必要はなく、目的地(次の充電場所)まで走行できる分だけ充電すれば問題ない。

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走行距離ごとの休憩時間(電気自動車が普及するには、どれぐらいの性能が必要なの?(前編)より引用)

④今後のバッテリー性能の向上

前述の通りテスラが2021年より生産を開始する予定の新しい「4680」と呼ばれる新しいバッテリーでは充電速度が大幅に向上すると見られていて、例えば以下の見積もりでは容量10%~68%で200kW以上の出力を維持できるとされている。これはモデル3ロングレンジ(航続距離560km)に換算すると約325km走行分であり、10分未満で300km走行分を超える電力が充電できるようになるとみられている。

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充電速度のグラフ(INSIDE EVsより引用)

ただしこれらの充電性能を活かすには150kWから350kW級の急速充電インフラの整備が必須であり、日本国内ではテスラ川口SC(最大250kW)の1箇所のみ(2021年1月現在)に留まる。欧米中では既に250kW~350kW級の設置が進んでいるが、国内では今後は前述の通り整備が加速することが予想されているものの、引き続き状況を注視する必要がある。

2-5. EVが普及すると電力不足になる?

2020年12月17日に自工会会長の豊田氏が「夏の電力消費ピーク時には10~15%電力が不足」「原子力発電でプラス10基、火力発電であればプラス20基が必要」とする主張を展開した。これは明確な計算の根拠は示されず、数字だけが独り歩きしている。

①電力のピーク時間帯は?

電力の使用量は季節や時間帯によって大きく変動するが、夏のピーク時間帯はお昼の前後。冬の場合は暖房を使用するために朝夕がピークとなる。

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電力の消費量(第4回: 知っておくべき電力・電力量の違いとはより引用)

②EVが充電する時間帯は?

前述の通りEVは基礎充電が基本であり、多くの場合は「人が活動して需要がピークとなる昼間」ではなく「オフピークである夜間」に充電することになる。また、車の平均的な稼働率は1割程度と言われており、残りの9割は駐車場に停められている。電気自動車には大きな蓄電池が搭載されており、車を使用しないときはオフピーク時に充電し、ピーク時に放電することで電力のピークシフトにも活用できる。

ピークシフトのイメージ
EVによるピークシフトのイメージ(次世代自動車振興センターより引用)

③全ての乗用車がEVになると?

以下の記事では国内の全ての乗用車(6,000万台)がEVになったときの消費電力を試算しており、2014年度の消費電力(863,817GWh)に対して10%程度増えると予想されている。

※参考:電気自動車は火力発電の電力を使うから意味がない?

これだけ見れば「やっぱり電力が足りなくなるのでは?」と思われるかもしれないが、実は近年では省エネが進み、一般家庭の電力消費量は2010年頃をピークに2015年度は約18%も減少している。(上記の記事によると発電ベースでも12.5%減少)

電力消費量の推移
電力消費量の推移(【1-2-13】 一世帯あたりの電力消費量の推移より引用)

2-6. EVは停電したら使えず、災害に弱い?

電気はガソリンと違って持ち運べないことから「EVは停電などの災害に弱い」とする主張があるが、これは事実とは正反対の主張である。

①災害による停電時の復旧時間

例えば2018年に発生した大規模な停電の99%復旧時間は以下の通りだ。

  • 北海道胆振東部地震:約50時間
  • 台風21号:約120時間
  • 台風24号:約70時間
  • 西日本豪雨:約100時間

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停電からの普及時間(経産省 資源エネルギー庁より引用)

これだけ見れば「やはりEVだとダメじゃないか」と思われるかもしれないが、そう結論づけることは早計だ。上記の時間はあくまで最も運が悪かったときの場合であり、多くの場合はそれよりも短時間で復旧している。さらにEVには大きな蓄電池を搭載しており、いざとなれば数日間は逆に家の電力を賄い、停電を回避することも可能である。半径数十kmの地域全体が長期間に渡って停電することは非常に稀であり、もしそれでも回復しなければ近隣の急速充電器で充電することで家庭の電力を維持することも可能となる。

②ガソリン車との比較

一方で災害やそれに伴う停電するとガソリンスタンドでは通常の給油はままならない。災害が起きればガソリンスタンドまでのガソリンの輸送がままならなくなり、停電すれば電動のポンプが使用不能になる(非常に遅い手動ポンプで対応することになる)からだ。過去に大規模な災害を経験した人であれば、ガソリンスタンドに長蛇の列ができ、ガソリンが入手困難になることは経験しているだろう。

③太陽光発電との組み合わせ

最も強力な災害対策はV2H(家庭への給電)に対応したEV(または蓄電池)と太陽光発電の組み合わせだ。昼間に太陽光発電で発電した電力で充電して発電しない夜間はEVや蓄電池に貯めた電気を使用することで、災害時でも停電とは無縁の生活を送ることが可能となる。

なお、実用的な容量の蓄電池を単体で買うと数百万円(最もリーズナブルなテスラパワーウォールでも工事費込で150万円程度から)することを考えると、80万円の補助金を適用すれば250万円程度から購入できる日産リーフは非常にリーズナブルな災害対策と言えるだろう。

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補助金適用後250万円程度から買える日産リーフ(日産公式サイトより)

2-7. EVは浸水したら壊れたり、感電する?

EVが高電圧のバッテリーを使用していることを引き合いに、「洪水などで浸水したら壊れて使えなくなる」「浸水したら感電する」などという主張があるが、浸水は設計時に対策され感電事故は1度も発生しておらず、嘘の主張である。EVのバッテリーは完全に密閉されており、万が一漏電を検知すれば瞬時に車体から切り離されるように設計されている。

例えば日産リーフでは以下のような冠水路での走行試験を行っており、水深80cmでも走行が可能であることが確認されているという。(ただし床上まで浸水した場合は点検が必要)

加えてHVでもEVと同じ高電圧のバッテリーを使用しており、EVが感電するのであればHVでも同様に感電する可能性がある。浸水への対応は法律でも定められており、具体的な法規制や対策については以下の記事が参考になる。

参考:電気自動車の事故や水没、感電するの?

2-8. EVはバッテリーが燃える?

過去のバッテリー発火事故を引き合いに「EVのバッテリーは燃えるので危険」とする主張があるが、発火事故はガソリン車・EVを問わず発生するもので、EVの方が燃えやすかったり危険であるという統計や科学的な根拠は存在しない

例えばテスラが2020年に公表した「2019 Impact Report」によると「テスラ車の火災は約2億8千万kmごとに1件で、米国の平均である3千万kmごとに1件と比べて約10倍少ない」としている。

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テスラ車の火災安全性について(2019 Impact Reportより)

この他、米国の政府機関であるNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)の報告でも「EVの発火事故の危険性はガソリン車以下」であるとされている。

参考:Lithium-ion Battery Safety Issues for Electric and Plug-in Hybrid Vehicles

あえて触れるのであれば、バッテリーの種類(材料)によって安全性が変わる場合がある。例えばCATL社が生産し一部のテスラモデル3に搭載ている「LFP」と呼ばれるバッテリーや将来的に実用化されるであろう全固体電池は安全性が高いと言われており、発売当初は「LMO」、現在は「NMC」を採用している日産リーフは1度も発火事故は発生していない

3.環境性

3-1. 日本ではEVよりもHVの方がエコ?

火力発電が多い日本の電源構成比を引用して「EVよりもHVがエコ」とする主張があるが、この主張は「木を見て森を見ず」といえる。確かに個別の車種や条件では逆転する場合もあるものの、条件の設定によって結果が大きく変わるため以下のように総合的に判断する必要がある。

①科学的な視点で見た排出量

最新の論文をもとに日本の電力の二酸化炭素排出量に近い550gCO₂eq/kWhで計算した排出力は以下の通りであり、車種別では逆転している場合もあるものの、多くの場合でガソリン車やHVよりもEVの排出が低くなることを示している。

EVとガソリン車の排出量の比較
EVとガソリン車の排出量の比較(CARBONCOUNTERより引用)

この他ケンブリッジ大学などによる以下の研究では、日本を含む世界の95%の国と地域では既にEVの方が排出が少ないとされている。

※参考:Electric cars better for climate in 95% of the world

②車は購入してから10年以上使われる

車の平均的な廃車までの期間は10年以上であり、ガソリン車ではエンジンの摩耗などにより燃費が悪くなる事はあっても、後から燃費が向上する(=排出量が減る)ことはない。これ対してEVはこの逆で、今後再エネが増えるに従って発電での排出量が減り、走行による排出量は下がる一方である。

2020年に政府が発表したグリーン成長戦略によると、カーボン・ニュートラルとなる2050年の再エネ比率は「50~60%を軸に議論を進める」とされているほか、小泉環境相により2030年の再エネ目標を現行の倍近い40%とすることが宣言され、アスクル・アマゾン・Appleなどが加盟する国内の環境団体である「JCLP」は2030年に50%とすることを政府に提言している。

グリーン成長戦略の再エネ目標
グリーン成長戦略(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略より)

※参考:小泉環境相、2030年再エネ40%超を宣言 現行目標から倍増
※参考:「2030年再エネ比率50%」の目標設定を求める提言を発表

また、グリーン成長戦略で発表された2050年の「50~60%」という再エネ比率については研究者からは「あえて低い目標を設定している国の事例を参考にしている」という批判もあり、さらに上向き修正される可能性もある。

仮に上記の目標により今後再エネが増えて排出量が半分の280gCO₂eq/kWhまで下がった場合、以下のようにさらに差が広がることになる。

再エネが普及したときの排出量
再エネが普及したときの排出量の比較(CARBONCOUNTERより引用)

③EVの方が排出量が多いとされる主張は?

主にガソリン車メーカーや石油関連企業によって「EVの方が排出量が多い」とする主張があるが、これらの主張は以下のように「EVに不利な古い条件や非現実的な条件」が設定されている。

3-2. カーボン・ニュートラルの達成にもHV?

前述の根拠をもとに「目的はあくまでカーボン・ニュートラルの達成であり、排出量を減らせるHVが欠かせない」とする主張があるが、前述の通り日本でもEVの方が排出力が少なくなる条件が多く、科学的な根拠に基づかない誤った主張である。

確かに「HV技術で負けている欧米中が日本メーカーに対して優位に立つために急速にEV化を進めている」という側面はあるものの、ガソリンを燃やす以上はHVではカーボン・ニュートラルを達成できないことは確かであり、EV化と再エネの普及(発電による排出量の削減)を迅速に進める必要がある。

3-3. バッテリー製造で大量のエネルギーを使うからエコではない?

EVに使われるリチウムイオンバッテリーの製造工程を引き合いに「バッテリーの製造で多くのエネルギーを消費するため環境に悪い」とする主張があるが、これも前述の通り古い情報や非科学的な情報に基づいた誤った主張である。

例えばマツダの論文ではバッテリーの製造における排出量に177kg-CO2/kWhという想定を用いているが、最新の研究では量産や再エネの導入により52~65kg-CO2/kWhまで減っている。

※参考:Personal Vehicles Evaluated against Climate Change Mitigation Targets
※参考:New report on climate impact of electric car batteries

3-4. バッテリーがすぐに劣化して交換が必要なのでエコではない?

前述の通りバッテリーが劣化した事例を引き合いに「すぐに劣化して交換が必要になり、結果的に環境に悪い」とする主張があるが、これも前述の通りバッテリーの寿命が伸びた近年のEVには当てはまらない

ちなみにEVで最長距離のギネス記録を保持しているドイツのHansjörg Eberhard von Gemmingen氏は2019年11月にモデルSで100万kmを突破、2020年12月には123万kmに達した。29万km走行後に初めてバッテリーを交換したが、最後にバッテリーを交換してからは既に70万km近く走行しており、耐久性が向上していることが伺える。

※参考:This Tesla Model S P85+ Just Passed One Million Kilometers On Odometer

3-5. FCVは究極のエコカー?

これまでに解説したような誤ったEV・バッテリーの知識をもとに「EVではなくFCVが本命」とする主張がある。確かにFCVは5分で満タンになり走行時には水しか排出しないため、一見すると魅力的に感じるかもしれない。しかし以下のような解決すべき課題が多く存在することを知っておく必要がある。

①カーボン・ニュートラルへの道は険しい

現状ではEVでも発電時にCO2を排出しているように、水素の製造や輸送、充填でもCO2を排出している。現在主流となっている水素の製造方法は天然ガスからの改質であり、排出量の少ない圧縮水素輸送でも1Nm3あたり1.62kg、1kgに換算すると約18kgのCO2を排出する計算となる。燃費は152km/kgなので、走行距離あたりで換算すると約118g/kmの排出となり、EVやHVと大差ない計算となる。

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水素の製造時のCO2排出量(経産省資料より引用)

しかし問題は走行による排出を0にする方法だ。例えばEVであれば再エネ100%で充電することで排出が0となるが、FCVの場合は再エネ100%で作った電気を使って水素を作り、その水素を輸送・充填する必要がある。工程が増える分どう頑張ってもEVより効率が悪くなり、コストも上がる。充填前に水素を800気圧に圧縮、さらに-40℃まで冷やす(プレクールする)必要があり、ここでも多くのエネルギーが消費される。

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EVとFCV、合成燃料のエネルギー効率の比較(TRANSPORT&ENVIRONMENTより引用)

上記の計算例ではEVが発電したエネルギーの77%を使えるのに対し、FCVでは半分以下の33%まで低下してしまう。言い換えると、FCVが再エネ100%でカーボン・ニュートラルを達成するには、EVで達成するより約2.5倍も多く発電する必要があるということだ。さらに技術が進み効率が改善する2050年においても約2倍の差が付くと予想されている。

また、カーボン・ニュートラルなグリーン水素の生成方法として人工光合成も研究されているが、現時点では効率・コスト面などから実用化の目処は立っていない。

②5分で充填できるとは限らない

最初に「5分で満タン」と書いたが、これには条件がある。水素ステーションは種類によって供給能力に差があり、古い時期に建設された水素ステーションでは1時間あたり3台~4台程度しか充填できない。例えば前車が充填した直後など、タイミングによっては20分ほどかかる場合があるのだ。

首都圏の水素ステーション一覧|水素ステーション普及状況|一般社団法人次世代自動車振興センター.png
水素ステーションの性能(次世代自動車振興センターより引用)

具体的には上記サイトで「300Nm3/h未満」と書かれている場所、全体の半数近くがこれにあたる。

③インフラの整備コスト

自宅でも充電できるEVとは異なり、水素を補充するには水素ステーションが必要となる。水素ステーションの建設には2019年現在で1基あたり3.5億円かかっていて、2025年の目標でも1基あたり2億円とされている。これは水素ステーションの整備が遅れている最大の理由にもなっている。

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水素ステーションの整備費用(経産省資料より)

例えばEVの急速充電器であれば多くは1千万円以下、国内で最も高価なテスラの250kW出力に対応したV3スーパーチャージャーでも4基で1億円未満であり、1基あたりでは14倍以上の差がある。もちろん全ての急速充電器を250kW対応にする必要はなく、そもそもEVは自宅充電が基本であるため水素ステーションほど多くの急速充電器を整備する必要もない

④燃料コストと補助金

現在は比較的安価な天然ガスの改質で製造している水素だが、それでも採算がとれるコストではなく、多額の補助金を投入してやっとガソリン車換算で15km/L程度の販売価格に下げている。販売コストは1,000円~1,600円/kg程度でこれに補助金が最大2/3支払われており、最低でも1kg(152km走行分)あたり600円以上の税金が投入されていることになる。

※参考:令和2年度「燃料電池自動車新規需要創出活動補助事業」の概要

⑤水素の正しい活用方法は?

以上のことから、世界の多くの国では乗用車に水素を燃料とするFCVを採用せず、EVを普及させる方向で動いている。それでは水素は不要かといえばそんなことはなく、正しい使いみちも存在する。

例えば車両の動力源として使う場合は自動運転で1,000km以上をノンストップで走る必要がある長距離トラックや大量のエネルギーが必要となる重機、さらに鉄道車両船舶飛行機などが有力な候補になる。一方で車両以外では製鉄など、電気では達成不可能な高温が必要となる産業向けとしては有力だろう。

なお、エネルギーの貯蔵においても高圧・低温保管が必要な水素ではなく、常温で保管可能かつ低コスト化が予想されるアンモニア、またはレドックスフロー電池などが有力な候補となる。

一番重要な事は「適材適所」であり、どんな技術であっても「最も向いている用途に使用する」ことがカーボン・ニュートラル、そして豊かな未来への近道になるだろう。

※参考(当ブログ記事):水素燃料電池車(FCV)が電気自動車(EV)に負ける理由

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4. 参考文献

参考文献は本文内のリンク先をご参照ください。この場を借りて、引用元の皆さまに感謝申し上げます。

また、特に参考となった文献について以下で改めて紹介させていただきます。まだご覧になったことのない文献がありましたら、ぜひご一読ください。

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